JAL123便事故 関連資料・10

「隠された証言」藤田 日出男 著(新潮社)
第9章 事故原因

事故原因は何か


垂直尾翼は何故破壊されたのだろうか。隔壁に疲労亀裂の痕跡があったとしても、急減圧が確認されない以上、客室の空気が垂直尾翼をパンクさせたのではない。

 それでは垂直尾翼を破壊したエネルギーは何だったのか。物を壊すには、外部からの力によるものと、構造的な欠陥や材料の欠陥、あるいはそのもの自体の振動による破壊などが考えられる。
 外部の力による破壊として、他の航空機との接触、衝突などが考えられる。事故当時、ミサイルとの衝突も広く信じられた。防衛庁による墜落地点の公表が遅れたため、ミサイル説には余計疑念が高まったのである。
 このほか、「隕石」と衝突したのではないかと言う不可抗力説までがささやかれた。

 垂直尾翼の構造的欠陥については、事故調査委員会の、「そんなもの必要ない」という声に押されて、相模湾から破片が回収されなかったため調査は不可能だった。しかし、事故直後には、わが国の航空局も、垂直尾翼自体に疑いの目を向け、3日後の8月15日、ボーイング747型機のグループ全機に対して、垂直尾翼付近の一斉点検を指示している。

 「日航123使事故は、垂直尾翼の損傷が事故の原因の端緒であるとの疑いが強くなったと判断されるので、とりあえず次の検査を指示することにした。アメリカFAA(連邦航空局)とも密接な連携を保ちつつ必要な措置をとる所存である」との書き出しで、飛行回数が1万5千回以上の機体については、今後100時間以内に、それ以下のものについては、300時間以内に次の点検をするように指示した。

 点検箇所は、垂直尾翼については、主として胴体と垂直尾翼との取り付けボルトなど3箇所。
 方向舵については、垂直尾翼とつないでいる蝶つがい(ヒンジ)、方向舵のバランスをとっている錘(バランスウエイト)の取り付け状態、方向舵を勣かす油圧ピストン付近からの油漏れは無いか、また油圧ピストン付近に遊び(がた)はないかなど4項目であった。

 この指示を受けて、8月23目までに点検を済ませた41機のうち、23機の機体から合計35箇所の問題点が発見された。このような点検は外国でも行われ外国航空会社では、43機から上部方向舵(ジャンボ機には上下二枚の方向舵がある)を動かす油圧ピストンの取り付け部分に亀裂が発見されている。この部分が破壊すると方向舵が飛散する危険性が高いと言われている。

 日航では古い機体16機のうち、12機に金具の亀裂、ボルトの折損・ゆるみがのべ20件、垂直安定板の胴体への取り付けボルトが折れたものが2本、緩んでいたものが6箇所発見されている。新しい機体でも、11機にボルト折れ、方向舵飛散の危険がある油圧シリンダー取り付け部分の亀裂も発見された。

 これまでにも、方向舵の一部が飛散した事故例はあった。ボーイング707型機の改造型機で垂直尾翼の上半分が飛散したことがある。壊れた垂直尾翼が右の水平尾翼に当たり損傷した。
 1989年4月12日、シドニーに着陸したコンコルドの方向舵の上半分か飛散して欠落していた。その他にもボーイングB‐52の垂直尾翼が倒壊した例もある。
 これらの垂直尾翼や方向舵の破壊は尾翼・方向舵それ自体の異状によって破壊されているのである。1966年3月5日富士山麓に墜落した英国BOACのボーイング707も、ペイントの付着状況から、垂直尾翼が倒れていたことが報告されている。隔壁破壊による急減圧で破壊されたものよりもその例は多い。

異状の始まり

画像
上下の方向舵が激しくこすれた圧着痕

 方向舵の回収された部分だけでも、疑問は残されている。ボーイング747型機の垂直尾翼には上下2枚の方向舵がついている。日航123便の2つの方向舵が接している下側の面に、上の方向舵の下端に付いているゴムのシールが、押し付けられて出来たような黒い筋が何本か付いているのである。

 日本航空の会社側からも、この筋が付いた原因について調査するように事故両に申し入れがあった。しかし、事故両側は「方向舵の残骸は回収されたものが少なく、この痕跡の発生の経緯を明らかにすることは出来なかった」と調査を放棄している。
しかし、この黒い筋は、明らかに上と下の方向舵が別々の動きをしながら破壊していったことを示しているものなのだ。

 さらにボイスレコーダーの解読結果の中に、8~16ヘルツ(1秒間に8~16回の、音としては聞こえない振動)の周波数変動が記録されている。これは音を記録するボイスレコーダー本体に機械的な振動が記録されたものと考えられる。つまり機体に何か振動が発生していたことを推定させる。この8ヘルツ付近の振動は、異常発生時の音とされている「ドーン」と言う音よりも、約4分の1秒前から始まっていて、この振動が異常の始まりとも見られる。

 事故調査委員会は、この振動について、次のように述べている。
 「左最後部ドアの天井付近に取り付けられているボイスレコーダーの本体に、このような大きな周波数変動が記録されたのは、ボイスレコーダー本体の設置場所の近くで防振装置によって吸収できないほどの著しい振動や激しい空気流が発生したことによるものと推定される」

 ボイスレコーダーの振動だけでなく、飛行機の動きを記録しているフライトレコーダーも横方向の加速度(2秒半の間に5回、左右に揺らすような力)が加わったことを記録している。つまり横方向に機体が動かされようとしたわけである。この力はどこから生じたのだろうか?

 この力は方向舵が左右に振動したために生じた可能性が考えられる。では何故、左右に振動したのか、垂直尾翼の残骸を回収していないため、ここからはどうしても推定の範囲を出ない。
 私たちは、機体の破片すら持たず、フライトレコーダーも解読したものしか見せられず、事故調が発表したデータだけしか見る機会が無い。したがってこの分析が完璧に正しいとは思っていない。

「フラッター説」の可能性

 ボイスレコーダーの周波数変動は機体の大きな振動か、激しい空気の流れによるものと事故調は推定したが、空気の流れはなかったことは生存者の言葉から明らかにされている。したがって機械的な振動の可能性が高くなる。

 ボイスレコーダー本体の設置されている場所は、生存者の落合さんの座席から、約4メートルしか離れていない客室の荷物入れの上で、背伸びをすれば手が届く高さにある。落合さんは、客室では空気は留まっている感じで、風は吹かなかったと証言しており、数メートル離れたところで、事故調の言うようにボイスレコーダーを揺らすほどの「激しい空気流」などあるはずが無い。

 したがってこの低い周波数の振動は、尾部の機体の振動以外に考えられない。尾部が16ヘルツ以下の周波数で振動するのは、方向舵などのフラッターと呼ばれる現象が考えられる。この付近での振動は、いずれにしても空力的なものが関係している可能性が高い。ジャンボ機の方向舵のフラッター振動数は、ボーイング社から12~13ヘルツと公表されている。

 フラッターというのは、方向舵が、風の強い日に旗やのぼりなどがパタパタとはためく状態と同じようになる現象で、過去にはこのために墜落した飛行機が少なくない。翼が破壊される原因としては、かなりの件数を占めていたものである。最近では設計段階でのテストなどにより発生は少なくなった。しかし、方向舵を動かすための油圧シリンダーを支えている部分にひびが入る例があって、油圧の支えがなくなり、破損した部分が方向舵の表面に変形を与えると、気流の乱れを生じてフラッターが発生する可能性も考えられる。
 ジャンボのような大型機になると1秒間に12回も機体の飛行方向を動かすには重すぎ、方向舵のヒンジ(蝶つがい)のほうが破壊されると見られる。

前述したように、事故機には上下2枚の方向舵があるが、下の方向舵が上の方向舵と接している面に、231ページの写真のような圧着痕が着いていた。方向舵は短い時間で破壊されたと見られるが、その間に多くの圧着痕がつくことは、上下の方向舵の位置が激しく変化したことを示している。そうした変化は、フラッター現象により方向舵が激しく振動したと考えると説明がつく。巨大な方向舵を300ノットの気流の中で、短時間に左右に振るのは油圧では困難である。空力的な振動としか考えにくい。

 この圧着痕は、上下の方向舵の間に角度のズレが発生し、しかも上下の方向舵が押し合ったために生れた痕だろう。さらに下の方向舵の上面に凹みが出来ている。これも上下の方向舵が押し合ったことを示していて、通常の位置関係で無くどちらかの垂直尾翼への取り付け軸にもずれが生じていたとしか考えられない。特に上の方向舵のパワーパックの取り付け部分が破壊し、方向舵に振動が発生し(フラッター)、上の方向舵がトルクボックスとつながっている6個の蝶つがいが上の方から破壊され、上端が飛行中の気流に押されて後方に引っ張られながら、後方に倒れるように飛散する過程で、下の方向舵の上面に圧着痕を残したとの推定も成り立つ。

 機体の最後部は上から下に押さえられたように尾部が曲がっており、補助動力装着も、下方に押し出された可能性がある。この点からも上から下に押し付けられたと考えると説明がつく。
 また相模湾で発見された垂直尾翼の前線は、上から3分の1程度だけであり、それ以外の部分は御巣鷹山で発見されている。何故3分の1の点で分離されたのか、その原因を考える必要がある。海上で回収された部分は曲げられ膨らみ、ハネカムの貼り合わせが剥がれたように変形していた。これが内部の圧力により破壊されたものと誤解された可能性があると考えられる。急減圧が無かった以上、前線の3分の1が上の方向舵によって引き倒された可能性が高い。

このような過程で上の方向舵の油圧装置(パワーユニット)が破損し破壊した場合、上の方向舵のヒンジが部分的に破壊され、300ノットの風にあおられて、垂直尾翼のトルクボックス上部に大きな抵抗が加わるために、機首が上げられる。さらにトルクボックスは方向舵によって後方に引っ張られたために、トルクボックスと前縁部分の先端部から3分の1は海上で飛散したと見られているが(トルクボックスの大部分は回収されていない)、のこりの前縁部分は墜落現場まで機体に付いていた。

 垂直尾翼の破壊過程についてはもう一つの疑問がある。なぜ垂直尾翼の上3分の1付近から直線的に折れて飛散し、海上から回収されたかということである。
 折れたのは垂直尾翼の根もとから395インチの外板のつぎめの所で、直線的に破断している。この部分はなぜかかなりふくらんだ状態で回収されている。ボーイング社の調査員がこれを見て、圧力隔壁の破壊と誤認するのもむりはない。ここから胴体側(下側)はふくらんでいない。この状態は395インチのところから外板がめくれ、そのすき間に、時速800kmの空気が流れ込んだために内側から破壊したとも考えられるのだ。

 この機体は事故以前から上下の方向舵に平均よりも大きなズレがあり、後部のトイレのドアは地上では問題なく開閉出来るが、飛行中に開閉出来なくなることがあった。
 これは飛行中、空気の力をうけて胴体が変形していた証拠とも見られる。さらに後方客室で時々金属性の異常音も聞かれていた。

 これらの事実より事故前から垂直尾翼に変形があった疑いが濃くなっている。この点からも、再調査に備えて後部圧力隔壁とともに尾翼の破片の保存は重要である。
 ボーイング社の調査団は、自衛艦「まつゆき」によって回収された、この尾翼前轍の破片だけを見て隔壁破壊と断定したが、この部分はトルクボックスが後ろのほうに倒壊してゆく過程で後方に折れるような形で折損したと見られる。そのために内側から、300ノットの風圧を受けており、内部からの圧力で膨らんだようにも見えなくは無い。

 尾翼の破壊過程、つまり本当の事故原因を追究するためには、もっと多くの尾翼の破片を回収しなければならない。
 各方面からあがった、相模湾からの破片回収要求の声を無視しておきながら、事故調は「回収された破片が少ないので尾翼の破壊過程は明らかに出来なかった」などとトボけた事を言っているのだ。
 客室内の空気が膨脹して噴出していない以上、垂直尾翼を内部からの力で破壊するエネルギーは得られず、事故調のシナリオは成り立たない。

 また我々は事故機の残骸をじっくりと観察することも出来ず、残された道は事故調査委員会の報告書の矛盾点をつき、その中から真実ヘアプローチする以外に方法が無い。
 方向舵の破壊とボイスレコーダーに記録された低い周波数の振動、機内に風が吹かなかったこと、方向舵のゴムの圧着痕など、現在我々が手にしている事実を基に、事故原因を推定した仮説が「フラッター説」である。

 すでに明らかにした内部告発による「証言記録」など、事故調が闇に葬り去ろうとした書類が日の目を見た以上、ICAOの国際条約に基づいて、政府・国土交通省は、大規模な再調査を速やかに再開しなければならない。



JAL123便事故 関連資料・3

「隠された証言」 藤田 日出男 著(新潮社)
第1章 墜落現場①

生存者発見
http://nekotomo.at.webry.info/201209/article_8.html


JAL123便事故 関連資料・4

「隠された証言」 藤田 日出男 著
第1章 墜落現場②

置いておかれた生存者
http://nekotomo.at.webry.info/201209/article_9.html


JAL123便事故 関連資料・5

「隠された証言」 藤田 日出男 著
第1章 墜落現場③

遅れた救難と素早い事情聴取
http://nekotomo.at.webry.info/201209/article_10.html


JAL123便事故 関連資料・6

「隠された証言」 藤田 日出男 著
第1章 墜落現場④
http://nekotomo.at.webry.info/201209/article_14.html


JAL123便事故 関連資料・10

「隠された証言」藤田 日出男 著
第9章 事故原因

事故原因は何か
http://nekotomo.at.webry.info/201210/article_1.html


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