発達障害の被告に、求刑超す懲役20年の判決

東京新聞【こちら特報部】 2012.8.5

発達障害被告に求刑超す判決

 大阪地裁で先月末、発達障害の被告に対し、異例の判決が出た。「被告の障害に対応できる社会の受け皿がなく、再犯のおそれがある」ことを理由に、求刑を上回る刑が言い渡された。これでは「障害者―犯罪者」として罰するのと同じではないか、という批判が高まっている。社会の受け入れ態勢の不備が、逆に障害者への厳罰化につながっている。判決から見える問題点をあらためて検証した。

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「精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていない」ため、
量刑を増したと記されている判決文の要旨


殺人罪有期刑の上限20年

 昨年七月に姉=当時(四六)=を包丁で刺殺したとして、殺人罪に問われた大東一広被告(四二)の裁判員裁判で、大阪地裁の河原俊也裁判長は先月三十日、被告に懲役二十年を言い渡した。
 求刑は懲役十六年。四年も上回ったのは、被告が「発達障害」と認定されたためだった。

 大東被告は小学五年で不登校になり、約三十年間引きこもり生活を送っていた。本人も家族も障害には気づいていなかった。被告は不登校になった時に「転校や引っ越しをして、やり直したい」と両親に頼んだが、実現しなかった。それを姉のせいだと思いこんだ。
 二十代のころにはインターネットで自殺の方法を調べようと、姉に「パソコンを買って」と頼んだが、新品を買ってもらえず、さらに恨んだ。
 犯行時は母親と二人暮らし。結婚して家を出た姉が被告のために生活用品を届けた際、「食費やお金は自分で出すように」と置き手紙で自立を促したことが、今回の犯行の引き金となった。

 大東被告は逮捕後の検察の精神鑑定で初めて、広汎性発達障害の一つ、アスペルガー症候群と診断された。この障害には、他人の感情や意図を理解することを苦手とする傾向がある。コミュニケーションがうまく図れず、いじめられて不登校になったり、障害者本人が被害感情を募らせてしまうこともある。

「他人に犯行 あり得ない」

 担当した山根睦弘弁護士は「障害のせいで、自分の苦しみはすべて姉のせいだと思いこんだ。通常なら考えられないような動機だ。家族への甘えが入り交じった複雑な恨みの感情を三十年も募らせた末の犯行であり、アカの他人への再犯はあり得ない」と説明する。
 懲役二十年は殺人罪の有期刑の上限。限度まで重くした理由は何か。判決は▽母親らが同居を断った▽被告の精神障害に対応できる社会の受け皿がない▽再犯のおそれがあり、許される限り長い期間刑務所で内省を深めさせることが社会秩序のためになる―とした。

「障害は罪」という差別

 この判決について、精神障害者の当事者団体「全国『精神病』者集団」の山本真理さんは「犯罪行為そのものを罰するのが刑法のはず。障害者だから罪を重くするのは、障害自体を罪として罰しているのと同じ。明らかな差別だ」と憤る。
 母親らが被告を引き取らない以上、社会に受け皿がないから刑務所ヘ―という判断についても「社会の支援不足を障害者個人や家族の責任に転嫁することは、本末転倒だ」と厳しく批判した。

 そもそも、統計では精神障害者の犯罪発生率は低く、件数も一般人に比べて極めて少ない。
 元法務官僚で龍谷大法科大学院の浜井浩一教授(犯罪学)は「発達障害そのものが重大犯罪の原因ではない。犯罪の多くは突発的。発達障害を理解してもらえないことから生じる『二次障害』が、強い被害念慮(確信はないが、被害を受けていると感じること)などを生み、それが発達障害特有のこだわりと結びついて起こされる。適切な対応によって二次障害をケアすることで、重大な結果を防げる」と話す。

 発達障害がある人たちの支援組織「日本発達障害ネットワーク」の市川宏伸理事長は「障害に特徴的な考え方や行動様式を周囲が理解していれば、と悔やまれる。三十年も社会的支援がなかったために起きた事件なのに、受け皿がないという理由で刑を重くするとは。障害者を何重にも追い詰めている」と語る。

 長期間刑務所に入れれば反省し、再犯が防げるという判決の趣旨だが、刑務所の現行体制では発達障害者も一般受刑者と同じ扱いをされる。神戸学院大法科大学院の内田博文教授(刑法)は「刑務所には発達障害に対応した更生プログラムがなく、長期間収容すれば、かえって症状が悪化するだけだ」と批判する。

 触法障害者はとにかく隔離―という判決の背景に何があるのか。
 精神障害者の人権問題に詳しい池原毅和弁護士は「地下鉄サリン事件以降の社会や、昨今の刑事司法の流れの影響が如実にある」と分析する。
 池原弁護士によると、二〇〇五年に施行された医療観察法が「ある種の出発点」。同法は心神喪失や心神耗弱で刑事責任を問われなかった精神障害者を入院させ、手厚い治療と社会復帰を目的に掲げて導入された。しかし、「障害者を犯罪者予備軍とみなして病院に閉じこめ、隔離しただけ。刑務所に長期間収容するというこの判決も同じ発想だ」(同弁護士)

「裁判員の正義感」に危うさ

 凶悪犯罪の発生件数は減少傾向なのに、治安当局やメディアは「体感治安の悪化」という言葉で危機意識をあおり、厳罰化か進んでいる。あおられた市民の「素朴な正義感」が今回の判決に反映された可能性もある。
 岐阜大の高岡健在教授(児童青年精神医学)は「障害者の親や家族、隣人など、障害について理解がある人が裁判員に入っていれば、良い意味で市民感覚が反映されるだろうが、そうでない場合、逆に社会で偏見を持たれがちな障害者が『市民感覚』により排除される結果になる」とみる。

 高岡准教授は裁判員に障害者の社会復帰への支援体制について、十分な情報提供があったのかも疑問視する。まだ乏しいとはいえ、刑務所を出た高齢者や障害者の社会復帰を支援する「地域生活定着支援センターなどのプログラムが整備され始めているためだ。

 前出の浜井教授は百本の刑事司法は更生や社会復帰を全く考えていない。家族や病院、福祉施設にも見放された時、断らないのは刑務所だけ。困ったときは刑務所へとなる」と批判する。
 「少年法の手続きのように成育歴や生活環境を調べ、障害と事件との関連性、再犯可能性などを検証する。さらにどんな支援が必要かを考えることこそ、真の更生と社会復帰に直結する。隔離すればいいというのはあまりに非人道的で、社会にとっても無益だ」

 障害者が社会で生きていくための支援体制は決定的に不足している。今回の判決は、その切迫した状況から目をそらした結果ともいえそうだ。

デスクメモ

 脱原発の合間に水俣病や障害者差別の問題を取り上げる。ただ、個人的には問題の根は同じに映る。つまり差別だ。脱原発デモの高揚はすばらしい。しかし、ともすれば、市民とか民主主義といった美辞の問に差別は隠される。泣く人はいつも少数者だからだ。障害者も、福島も孤立させてはならない。

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